迷宮の魂

 遥があの女の住所と本籍地を知ったのは、たまたまママの家で見た彼女の履歴書からだった。

 中に居た時に、詐欺の常習犯から、他人になりすます手口を聞いていたから、何時か役に立つかも知れないと思い、履歴書を写し取っていた。

 彼は正体を曝せられない。

 互いに隠し通したい過去がある。

 ならば、隠し通せる場所、互いに身を寄せ合える場所を作ればいい。

 東京に戻って四日目。

 残っていた金で借りられる安いアパートを探した。丁度、荻窪の方に手頃な物件が見付かった。

 保証人は、不動産屋がそういう会社があるからと紹介してくれ助かった。その分、余計な費用が掛かったが仕方が無い。

 四面堂の交差点の傍にディスカウントショップがあったので、電化製品や家具はそこで揃えた。

 六畳一間の古ぼけたアパートだが、彼と二人で生きて行けるのなら、どんな所でも暮らして行ける。

 遥は早速手紙を書いた。

『大丈夫です。貴方は直也のままで生きて行けばいいのです。そして、私も、津田遥を棄てます……』

 最後にそう書き添え、封をした。





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