迷宮の魂

 直也は、明日の最終便で東京へ行くと言っていた。

 八丈島から羽田迄、一日4便が飛んでいる。最終便は午後4時頃の出発だったと美幸は記憶していた。

 その前が確か午後2時前後。いや、1時だったろうか。

 どっちでもいい。とにかく、直也より前の便ならば。

 美幸は決めていた。

 自分も東京へ行くと。彼の行き先を確かめる為に。もし、想像通り遥の処へ行き、会っていたとしたら……

 その先の事までは考えていなかった。

 あの人は誰にも渡さない。いえ、遥だけには渡しちゃいけない。

 その一心だけで、美幸は動いていた。

 美幸が八丈空港の搭乗カウンターで手続きをしていた時、岩田屋の勝巳が偶然彼女の姿を見た。

 傍へ行って声を掛けようとしたが、丁度、羽田からの到着便から降りて来た人混みに、前を遮られてしまった。

「久しぶりだなあ勝巳、元気だったか」

 その便で島にやって来た昔の友人が勝巳の姿を見つけ、声を掛けて来た。

「わざわざ迎えに来て貰ってすまんなあ」

 友人の言葉を上の空で聞いて、美幸の姿を見失うまいとしていたが、いつの間にか何処かへ消えていた。

「どうした勝巳?」

「いや、ちょっとね」

 勝巳は友人を自分の車へ案内した。





< 130 / 226 >

この作品をシェア

pagetop