迷宮の魂

「ほな、純さんで決まりや。うちの名前な」

「ルカだろ」

「それは仕事での名前や」

「いいよ、それで。別に無理して本名を教えてくれなくても」

「……」

「金で知り合った関係だ。君はルカという名前の女の子……それでいい」

「そやな……純さんかて、純一やのうて純二かも知れへんし、山本やのうて山田かも知れへんしな。名前はどっちでもええよね」

 ルカの言い方が皮肉っぽく聞こえたのか、純一は苦笑いを浮かべた。

 ルカは何と無く寂しさを感じたが、それもすぐに消えた。

 何かを期待する自分の気持ちにそっと鍵を掛けた。

 気を取り直したルカは努めて明るく振舞った。

「意外だったな……」

「何が?」

「もっと高い店に連れて来られるのかと思ってたよ」

「こういうとこしか知らんもん」

 そう言ったルカを見て、改めて服とかバックを見直してみた。

 普通の子達よりよほど地味だ。少し化粧は濃いが、今時のOLにはもっとケバケバしく化粧している子がいる。一回客と寝れば普通のOL達が一日で得る収入よりも遥かに稼ぐ。そういう女にしてはそんな匂いも感じさせない。だからこそ、彼女を指名していたのかも知れないが。

 そんな事を考えながら、自分と同じ傷がある彼女の手首に目がいった。

 時折、相槌をうつだけの純一だったが、ルカの方はそんな事など気にもせずずっと話し掛けて来た。

 過ぎ行く時を忘れる程に過ごしたのは、いったい何時以来だろうか。男はふとそんな事を思った。

 店員に閉店時間を告げられ、三時間以上も此処に居たのだとやっと気付いた二人は、そのまま店の前で別れた。

 三日後、山本純一はルカをまた何時ものホテルに呼んだ。




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