Around‐30 譲れない戦い
電話を終えた智に詰め寄る私の覚悟はすでに固かった。
「智、別れよう」
「は?」
キョトンと事態が飲み込めていない様子の智が顔を上げた。
「別れて。私はもう智のこと待てないから。部屋は決めてあるし、荷物は後で取りに来るから」
「…わかった」
俯いた私に振り落とされた台詞は、ただそれだけだった。
コートを羽織り、車のキーをポケットに入れた。
用意していたキャリーケースの取っ手に手をかけ、部屋を見渡した。
いよいよ結婚。という期待を込めてワクワクしていた1年前の私は、…もうここにはいない。
ソファーに座ったまま、どこを見てるのか焦点が合っていない智を横目に。
「じゃあ、元気でね…」
振り返ることなく、玄関の内扉を閉めた。
智のことだから私が荷物取りに来る時には、きっと家にいないだろう。
立ちはだかる問題には目を背ける、逃げ出す。そういう奴だからね。智は…。
『ねぇ?私のこと、少しでも好きだった?』
そんな愚問、結局聞けなかったなぁ…。
…今晩くらいは泣いてもいいかなー。
見上げた先の暗雲からパサッーと降り注ぐ白い雪。
始まりの日も、確か雪が降っていたんだよね。
バイバイ…。
大切な9年をありがとう。
私は明後日のクリスマスを待たずに、智との9年にピリオドを打った。
【END】


