君に染まる(後編)
「落ち着いたか?」
ロビーの椅子に座る私にお茶を差し出した先輩はそう言いながら隣に座った。
「はい、すみません、お騒がせして…」
受け取ったお茶をすすりながら少し涙目になる私に先輩はハッと笑った。
「なんだよ、泣いてんのか?」
「だって、あんな大勢の前で腰が抜けちゃうなんて、みっともなくて…」
「それは俺にも責任あるんだから気にすんな。急に壇上にあげて悪かったよ」
「そうですよ!どうしてあんなこと…」
「どうして…うん、なんでだろうなあ」
珍しくはっきりしない先輩に首をかしげた。
「元々あんな紹介なんてするつもりなかったし、そもそも今日は未央が俺の恋人だって管咲のおっさんに見せつけるだけで良かったんだけど…なーんか未央が思い詰めてる気がしてな」
ぼんやり天井を眺めてた先輩が私の方に顔を向けた。
「俺と蘭が並んでるの見てショック受けてたろ?」
図星をつかれて顔を背けた。
やっぱり見抜かれてたんだ…。
「まあ、気にすんな。物心つく前からこーいうパーティに出まくってる蘭と未央じゃ違いすぎるし別にそんなことどうでもいい。というか、俺が気にしてほしいのはそっちじゃないんだけど」
私が持っていたコップを取り上げ机の上に置くとグッと体を近づけてくる。
「さっきの俺の話、どう思った?」
ドキッ
避けてた話題を追及されて目を合わせられずにいると、顔を掴まれ強制的に見つめあう体制にさせられた。
「ちゃんと聞いてたか?」
逃げ腰になっても今度は体を引き寄せられ逃げられない。
聞いてた、ちゃんと。
鈍感な私でもちゃんと分かる。
コクンと頷くけど先輩は顔色を変えなかった。
「本気だからな」
真剣な目。
「今日、あんな形で言うつもりなかったし、さっき言ったみたいに軽々しく約束ができるほど俺はまだ一人前じゃない。けど、いつか必ずちゃんと伝える。だからそれまで…いや、その後も俺の側にいてくれ」
自分勝手な先輩からの命令じゃなく、お願い。
そんなこと言われて断れるわけないし…元々断る気なんてない。
それは先輩も分かってるはず。
クリスマスイブから少し弱気になった先輩はどこか愛おしくて…だから私も少しだけ積極的になれる。
先輩の頬に触れるだけのキスをして「待ってます」と呟いた。
私がこういうことをすると本当に驚いて目を見開いてしまう先輩だけど、すぐに選手交代。
引き寄せられていた体はそのまま強く抱きしめられ唇が重なる。
誰が通るか分からないロビーでこんなこと、前の私なら考えられなかった。