君に染まる(後編)
「これは一体なんの騒ぎ?」
優しく柔らかい声、だけどこの場を一瞬にして抑えるほど威厳のある声。
カツカツとヒールの音が響き全員が声の主に顔を向ける。
綺麗なドレスを着た綺麗な女性がそこにはいた。
セミロングのふわふわの髪が揺れている。
「母さん!」
「園子さん!」
創吾先輩と管咲さんのお父さんが同時に声をあげた。
え?
もう1度女性を見ると、満面の笑みを浮かべ高いヒールにも関わらず小走りで創吾先輩の元にかけよった。
「創吾~!久しぶり、会いたかったわ。また大きくなったんじゃない?」
「去年の夏からそんなに変わってねぇよ」
「あらそう?でもまた背が伸びたんじゃない?スーツなんて着て、立派になったわね」
頭を撫で、頬を包み込み、先輩をペットのように撫でまわす。
先輩は大人しくされるがままで、でもどこか嬉しそうだった。
「あら?もしかしてこの子…」
目を輝かせたまま私をチラッと見ると嬉しそうに私と先輩を何度も交互に見る。
「百瀬未央。前に言ってた彼女。悪いけど、今度きちんと紹介するから」
「あら、そう?残念。けど、すごく可愛い子ね。いい子見つけたじゃない。これで元気な子を産んでくれたら獅堂は安泰だわ~」
「母さん!」
私もギョッとしたけど創吾先輩もガラにもなく狼狽えている。
これが、創吾先輩のお母さん…。
「未央さん、っていうのね?初めまして。創吾の母の獅堂園子です」
「あ…は、初めまして!百瀬未央と申します!お会いできて光栄です」
「あら?一般家庭の娘さんって聞いてたけど礼儀正しい子ね。創吾もう教育したの?」
「畠山が少し…ってか教育って言い方やめてくれ」
「そう?ごめんなさいね未央さん。もっとゆっくりお話ししたいんだけど私すぐにイタリアに帰らないと行けないの。また今度よろしくね」
「はい、またお会いできるのを楽しみにしております」
「可愛い~。初々しい子ね。母さん嫌いじゃないわよ」
女子高生のように創吾先輩にキャッキャと絡むお母さん。