出世魚
「最近シーバーの調子悪くて」

店員同士が連絡をとる手段として
この店ではトランシーバーを使っている。

「どれ、貸してみ。」

作業の手を止め、シーバーをいじり始める。

キレイな手。

ずっと見ていたいけど、ただ突っ立っているのも居心地が悪いので
一旦売場に戻ろうとした。

「いってーぇ」

地味に叫ぶ久江さん。

「どうしたんですか?」

「金具で指切った。」

長くてキレイな彼の指に血がにじむ。

「大丈夫ですか?」

「ん。こんなの日常茶飯事だよ。超大丈夫。」

久江さんは傷口をハンカチで押さえながら笑って言った。

「ばんそうこう使いますか?」

「まじ、持ってる?助かるー。」

そういうと久江さんはハンカチをはずして人差し指を私の前に差し出した。
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