フェイクハント
 篠田の言葉に、典子が静かな声だが、しっかりとした声で反論した。


「典子が遥を殺すわけないじゃない! 海人も何か云いなさいよ!」


 涼が強い口調で篠田と海人に詰め寄り、交互に睨みつけたが、海人は俯いたまま何も答えなかった。

 結局、篠田に半ば強引に連れられて、典子は階段を降りて行った。


「どういうこと? 説明してよ海人」


 涼がもう一度迫ると、海人は重い口を開いた。


「篠田さんが云ってた通り、遥を殺したのは、お通夜に列席してた人の中しか考えられないんだ」


「だからって、何で典子だけなのよ!」


「典子は遥を恨んでいたんじゃないか? 静夫の浮気相手だと思い込んで……」


 パシーン! 乾いた音が廊下に響いた。涼は海人の頬を引っぱたいたのだった。


「恨んでいたとしても、典子は人殺しなんかしない!」


 涼はそう叫ぶとボロボロ泣いた。海人は、分ってる分ってると俯きながら呟いた。

 涼の怒鳴り声で、いつの間にか廊下には、雪絵と秀樹も出てきていた。


「ごめんな、俺が刑事だから……。署に戻るよ」


 と言葉を残し海人は力なく階段を降りて行った。その後姿が視界から消えると、涼はへなへなと座り込んでしまった。

 その姿を見た雪絵と秀樹が慌てて駆け寄ってきた。
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