王国ファンタジア【氷炎の民】完結編
『手を焼かされたはずだ。霊獣とわが眷属の裔(すえ)か。それにそなたは懐かしい匂いがする』

 ドラゴンはサレンスにふたたび瞳をむけた。

『蒼き瞳に銀の髪か。かの神もそのような姿を好んで使っておったな』

 竜の言葉にレジィは小さく息を飲み、サレンスの様子を不安げに伺う
 氷炎の民の青年は、神<サレンス>の器でもあり、<器>はまた神自身の一部である。<器>は本来の自分自身を思い出したとき、本体の元に<還る>ことになる。ゆえに、サレンスには氷炎の神に関する話は極力伏せられていた。
 しかし、サレンスは別段いつもと変わった様子はない。
 ただ問い返す。

「神?」

『そう。太古の昔、神々は世界を一度滅ぼし作り直そうとしたことがあった。神と<人>との戦いが勃発した。その折、唯一、<人>に組した神があった。創炎の若き神。彼は世界の破壊を食い止めるため、己の力を人に分け与えた。人を滅ぼせば、かの神をも滅ぼすことになる。さすがに神々も己の同胞を滅ぼすことを躊躇し、結果<人>は護られた。しかし、人に神の力を分け与えることは世界の理に反していた。世界を成立させている理に反せば、いずれ歪みが生じ、世界そのものが壊れてしまう。それを防ぐため、かの神は眠りに就かざるを得なくなったと聞く』

「聞いたことがある。我らが氷炎の民の守護神は創世の昔犯した己の罪のために眠りに着いた神だと。しかし、それが彼の罪だったというのか」

 サレンスの感慨にも似た言葉にドラゴンはそれ以上答えず、レジィとサレンスを当分に見つめた。

『それではそなたらがかの神の力を受け継ぐものたちなのだな。黄金の姫の末裔は私利私欲と権勢欲に塗れてしまったが、この王国にはいまだ心あるものがいるようだ。お前たちが居る限り、我が滅びをもたらすのはまだ速いだろう。我は今一度大地と同化し、この地を護ろう。だが、その前に』

 ドラゴンは言葉を切り、レジィの手にある錫杖にはめこまれた宝珠を見つめた。
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