ドライヴ~飴色の写真~
   〈2〉

「和紗! 遅いよ。超ギリギリ!」

 酸欠気味の私の脳内は、自分の名前を呼んでくれる友人の声にさえ靄をかける。

 私は腰を曲げ、肩で大きく深呼吸をしながら、目の前の壁に掛けられている数枚の厚紙のうち、一枚を震える指で指した。

 それには、《田中和紗(たなかなぎさ)》と、私の名前が書かれているはずだ。

「……弥生、タ、タイムカード……」 

「はい、切ったよ。早く朝礼行くよ!」

「待って、鞄……」

「ええい! もう、そこの事務所にとりあえず置いときゃいいんだよ。どうせ、たいした所持金入ってないんだから」

 ちくしょう。

 私がろくにしゃべれないのをいいことに、この《松山弥生(まつやまやよい)》はなんだか失礼なことを言っている。

 だが、今はそれどころではないことは確かだった。

 私は、弥生に腕を掴まれ、引きずられるような形で朝礼の行われる教室へと向かった。
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