天使降臨
(『小説・堕天使無頼』改題)
翌日の晩だった。
風呂あがりなのにきっちりと長袖Tシャツの上にセーターを着込み、冬用の厚地ネルパジャマを着込んだサキが先に一杯やっていた俺の横に座った。
「私を好きでいてくれてるの?」
潤んだ大きな瞳。
「どうした? サキ、お前はどうなんだ?」
「とても」
トテモ。その先は?
「とても愛してる。でも……」
「でも?」
「私はこの先、愛されないかもしれない」
「そんな訳ないだろう。俺は本気だよ」
俺はまだ生乾きの彼女の髪を撫でた。
珍しい。髪を乾かしきらないままだ。
「俺がサキを抱かなかったのは……怖かったんだ。すぐに手をだす男だって、お前にだけは思われたくなくて」
「ねえ、私が醜くてもいいの?」
何を言うんだ?
「お前はちっとも醜くなんかない」
サキは諦めたように背中を向け、上着を脱いだ。
そこには。
翼をもぎとられたような。
まだ鮮紅色の、縦に裂かれた大きな傷がふたつ、あった。
「まだ最近か。何があったかは聞かない。酷い目にあったんだな。でもな、サキ、関係ない。こんな傷。人間が有り難がる天使の証みたいじゃないか」
「天使?」
上着を脱いでやはり寒いのか、震えるサキの声もか細い。
「俺は天使はサキひとりでいい。ふたり。くっついていればあったかいだろ? おいで」
いきなりサキは幼児のように激しく泣き出した。
「泣くなよ。陳腐なこた本当は言いたかねぇ。だけど俺は、お前が可愛くて仕方がないんだ。愛してるんだよ!」
翼の代わりに何枚もの毛布と俺の体温でサキを温めながら、
その夜、俺たちは結ばれた。