動き出す時計
その、眩しすぎる程の笑顔を浮かべる目の前の人物を見て何かを言おうとするも、柚音は喉が張り付いたように何も発することが出来なかった。
口をパクパクさせている柚音を見て、母親であるMIYAもとい未亜はにこにこと笑っていた。
「柚音に会いたくて。」
まるで、柚音が何を言いたいのかわかっているような口振りだ。
「な…何言ってるの?」
そこで、ようやく柚音は言葉を発する事が出来た。
それは自分でもビックリしてしまうほど、か細い声だった。
「ま、とりあえず入りなさい。詳しい話はご飯の後でね。」
今まで自分一人で過ごすことの方がはるかに多かったこの家に招き入れられる感覚があまりにも慣れなくてむずかすい。
未亜に言われて初めて、美味しそうな匂いが家中に立ち込めていることも、この時に気がついた。
少し混乱している頭をなんとか動かし、柚音は未亜のあとに続いてリビングへと踏み入った。
四人掛けのテーブルには美味しそうなビーフシチューが用意されていた。
「お腹空いたでしょ?お母さん、料理なんて久しぶりだけど出来るものねー。」
反応の少ない柚音に気を悪くするわけでもなく、未亜は話続けている。
柚音は食べることを躊躇ったが、空腹に耐えられる筈もなく仕方なく目の前の料理に手を伸ばす。
黙々と食べ始めた柚音を見て、未亜は嬉しそうに目を細めた。