HEMLOCK‐ヘムロック‐番外編
「あ!? もしかして私の事、色カノにしてくれるの!? やったぁ~」
……まだ何も言ってない。
でも、敢えて反論する気にはならなかった。
何も言わない俺に「照れ屋だねー」とか言いっていた。
俺と樒はお台場で一通り、デートらしいデートをした。
入店の19時には店に戻らなければならないので、夜景は楽しめないが。
予想外にも俺にとって楽しい時間だった。と感じたのは今でも覚えている。
シメ日とか売り上げとか忘れて、昔からの友達かの様に樒と俺ははしゃいだ。
「昴……、言い出したは私だけどさ、やっぱり昴には“キミ”じゃなくて“樒”って呼んでほしいな」
帰りのプチ渋滞にハマり、なかなか進まない車内で、助手席の樒が唐突に言った。
「なんで?」
俺は少し冷たい聞き返し方だった。
でもこれが、素の俺だ。
そう自分で自覚出来るくらい自然体だった。
このやり取りだって営業のハズなのに、俺はなんだか樒に優しく出来ない。
「みんなに“キミ”ってあだ名で呼ばれてるから……、昴には名前で呼んで欲しい」
「……それって、なんか特別なコトなのか?」
もう、俺は不自然に語尾を上げたりしない。
「私にとっては、ね……。
“特別”な人に名前で呼ばれたいんだ。
私――っ」