花鎖


ぽとりと、少女が右手に持っていた薔薇の花束を落とす。青年は、それに気付くが、その行為を止めない。唯、触れるだけの口付け。それを、青年は酷く優しく行う。

「・・・苦しかった?」
「ちょっとだけ・・・。そんなにしたことないですから・・・」

その言葉を聞いて、青年は一瞬切なそうな目をした。が、すぐに狂気の目になる。そして、愉快そうに口元に弧を描く。

「そうだね。『そんなにしたことない』からね」

クスクスと笑い声を出し、少女を抱きしめる。少女は唯、されるがまま。だが、少女は青年を愛している。だから、笑顔でそれを受け入れる。己も青年の背中へ手をまわし、抱きしめ返す。その白い頬を、微かに朱に染めながら。

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