天国の丘
「何もマーサが謝る事ないよ」
「そうよ」
「本当は、アタシもアンタ達と一緒になってあの人をもう一度こっちの世界へ引き戻したいと思ってたのよ」
「判ってるよ。他の誰よりもその事を願っていたのがマーサだって事を……」
リュウヤさんの言葉に僕達は頷いた。
「あの人が自分からステージを降りたのは、自分の思い通りの演奏が出来なくなったからという話しは、前もしたと思うけど、その頃の苦しむ姿をアタシはずっと側で見ていたの。
一度はヒロポンから足を洗って音楽の世界に戻って来たものの、昔通りの音が出せないと言っては、アルコールに走り、やっと貰えた仕事に、
『チンドン屋紛いの仕事をこの俺にさせるのか、人を馬鹿にすんじゃなねえ!』
と言ったかと思うと、
『もう俺は駄目なんだ。』
と言って落ち込み、揚げ句の果てには大量の睡眠薬を飲んで自殺騒ぎを起こす始末……。
それがアタシの頭に強く残っていたものだから……」
「そういう姿を思い出し、それで又そんなふうになって欲しくないって思ったんだね?」
僕の言葉に彼女は頷くと、流れそうになる涙を隠そうとするかのように顔を背けた。
そして、何か思い出したかのようにステージ裏の部屋へ入った。