天国の丘
「片付けは適当にして、最後の一本を皆で開けちまわないかい」
ヘブン・ヒルの15年。
マーサが、あの人が好きだった酒と言っていたバーボン。
「天国の丘、か……今はまだ階段の途中かな……」
リュウヤさんがそう呟くと、
「もう今頃は着いてるんじゃない……」
とリサが言った。
マーサがそれぞれにグラスを渡し、琥珀色の液体を満たしていった。
「乾杯」
「T・Jに……」
二度目に飲んだヘブンヒルの15年は、前の時より僕の胸を熱く焦がした。
「アタシ、アンタ達に謝らなくちゃいけない……」
三口目でグラスの中味を飲み干したマーサが、吐き出すようにして話し始めた。
「アンタ達の言う通り、T・Jをもう一度ステージに上げてやれば良かった。
そうすれば、こんな形であの人を見送る事も無かったと思う。
知ったような事を言って、あの人を引っ張り出さないでなんて口を利いちゃって……。 本当に済まないと思ってるよ」
二杯目を注いだグラスの縁を、指でなぞりながら喋る姿は、何だか驚く程小さく見えた。