渚
一章
都会にて
まったくなんでこんなにくそ暑いのか。張り付くTシャツが気持ち悪すぎて今日1日のやる気がなくなった。なんで大学に来ないといけないのか?体力の無駄だろう。うん、帰るか。そして冷たいかき氷を食べてやろう。 構内に入って僅か二秒で決めた俺は正門に向かった。味はいちご味がベスト。これだけは譲れない。あの白銀の山を紅で染めるのだ。 「待ちなさいこの馬鹿」 空耳が聞こえた。何かが何かを言っているが気のせいだろう。目の前にたちふさがる人物なんか居ない。きっと幻だ。 「何が幻よ! ちゃんと目の前に居るわよ!」「分かってるさミナミ。ちょっと夢を見ただけだ」 ふうと溜め息をつくショートカットの女の子の名前は早乙女美波。入学式の時に隣に座ったのが縁で何かと一緒に行動している子だ。 「あんたどこに行こうとしてんのよ?」「ん、秘密」ぴきりとミナミの動きがとまる。「あんたは馬鹿か!今から前期試験だろうが!」前期試験か……まともに講義を受けてないから結果は火を見るより明らかだ。点なんか取れる筈がない。うん。なら受けるのも無駄だ。 「ミナミ、俺はうけないか……」「……」 無言の圧力が押し寄せてくる。 「はい。受けます」 白銀の山が遥か遠くに消えた。