短編小説集


「嘘だ」


首を振ったのを「好きな人はいない」と言う意味にとった彼女は、眉を寄せて断言する


そこまでハッキリ断言されると、逆に不思議だ


「だって、何か考え込んでること多いじゃん。ぼーっと、桜見上げたりして」

「...別に、それが好きな人の事だとは限らないよ」

「いーや、私にはわかる。恋する乙女の目だった!」


力説されてしまえば、反撃するのも面倒なので「そうかもね」と頷いて、冷めてしまったコーヒーを一口流し込む


カフェから見える桜はまさに満開


ピンクの花びらが風に乗って地に落ちる


その様は幻想的で目を奪われる


「どうしたの?」


ガタン、と音を立てて急に立ち上がった私に、彼女は驚いたように声をかける


ただ、私にはそれに答える余裕はなかった


数年前になにも言えずに見送った、あの、背中


桜の下に、彼を見つけた


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