LAST LOVE -最愛の人-

電車ではしばし静寂が続いた。
いつもなら居眠りをしても全く気を使わない仲なのだが、気まずさに耐えかねて沈黙を破ったのは芽依の方だった。

「…さっきの、莢木くんの彼女?初めて見た。可愛い子じゃん」

「ん~?そうですかね。まぁ俺可愛い子としか付き合ったこと無いんで」

いつもの調子で翔がおちゃらける様子を見て、芽依は心の中でほっと溜め息をついた。

「うちの大学の子?」

「隣の女子大です」

「…コンパでしょ?」

「当たり!すげー」

悪びれも無く認める翔に、芽依は思わず笑みが漏れ、改めて向き直るとまじまじと翔の顔を見つめた。

いつもふざけたキャラのせいで隠れがちだが、切れ長の目と筋の通った鼻。
少し襟足の長い、柔らかくて繊細な茶髪が綺麗に映える首筋。

(こうして改めて見ると莢木くんて、可愛い……てか、年下じゃなかったら、かなりかっこいい部類か…)

芽依の注視に気付いた翔が、冗談混じりに鼻をふふんと鳴らせ高飛車に笑む。

何かを企んだような流し目も悔しいが綺麗だ。

「…惚れ直しました?」

思わず見とれてしまってた自分に気付いた芽依が一言。

「まず一生かけても有り得ないね」

「うわ冷たっ!酷っ!」

少年のように笑う翔につられて芽依も笑みを返す。
瞬間、それと対比するように先程の冷たい翔の表情が頭をよぎった。


『―――うるさい』


突き放すような表情、声のトーン。
女の子、しかも彼女である相手に対して向けるものには到底思えなかった。


急に黙り込んだ芽依に対して、不思議そうに首を傾げたが、反応が無いことを確認すると、翔は手持ち無沙汰に携帯を弄りはじめた。









(付き合うって何?)


(幸せな恋愛の延長線にあるものだと思ってた。
勿論今もその考えは変わらないけど――)





(私達が今してるのは、本当に恋愛なのかな)


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