憎悪の視線
 百合子は駅で待ってくれていたようで、駅から十分くらいで息を切らし駆けつけてくれた。


「広子大丈夫? 顔真っ青じゃない。説明して」


 心配そうな表情の百合子に、私はさっきの出来事を説明した。


「私が広子を向かえにくれば良かったわ。ねぇ広子、あなたを恨んでいそうな人物に心当たりとかない?」


 考えてみたけれど、恨まれるようなことをした覚えはなかった。だから尚更誰が私を狙っているのか考えると、不安で恐ろしい。

 その時、携帯の着信メロディーが鳴った。
 どうやら百合子の携帯で、画面を確認している。


「ごめんね、彼氏からのメールだったわ」


「そう。百合子の彼氏っていつ頃こっちに帰ってくるの? 随分長いこと転勤先に行ってるみたいだけど」


 すると、百合子は嬉しそうに答えた。


「それがね、今メールで、もうすぐでこっちに帰って来れるんですって。もう少しって、後どのくらいなのかしらね」


 百合子の嬉しそうな顔は久し振りに見た気がする。私は近くに典男がいるから寂しくないけれど、やっぱり遠距離恋愛って寂しいわよね。だからなのかしら、最近百合子は少し太ったように見える。もしかして、寂しさを紛らわすために食べ過ぎてるのかもしれないわね。そう考えると百合子が可哀相に思えた。

 それから、百合子は私を気遣ってなのか、楽しい話題ばかりを話してくれたので気が紛れた。

 百合子が帰って独りになると、今日のことや首吊りのロープのことを考えてしまう。それにやっぱり誰かに見られている気がする。

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