キミが居た病院


 その‘何か’は目を大きく見開き、歯をむき出しているので笑っている様にも見える。

 白目のほとんどが赤のような黒のような説明しがたい色をしていた。

 服を着ているわけではないが、裸ではないようだ。

 黒いもやもやしたものが体を取り囲んでいて、もやもやの中からチラっと見えたのは赤黒いものだった。

 まるで皮膚を剥がれて筋肉だけのような……とにかくぴったり当てはまる言葉がない。

 そして動けないでいると、‘何か’が口を動かしているのが分かった。

 だが、実際に声は出ていないみたいで、優香には何も聞こえてこなかった。

「……ッ」

 気を失う直前に、頭の中に直接言葉が届いた。

 それはハッキリと、こう聴こえた。


「連れて行く」


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