揺れる
目眩
 私は心を奪われてしまった。



 まるでひったくりに遭ったかのように、唐突に奪い去られた。



 振り返ってもこれといったきっかけが思いつかないということは、おそらく一目惚れだろう。



 朝その人は私の駅から二つ離れた駅で電車に乗り込んでくる。       


 そして決まって、先頭車両から三つ目の車両に姿を現す。



 私はどこの車両と決めていなかったが、その人に引き寄せられるように三つ目の車両に乗り込むようになった。



 その人が乗り込む駅に到着するまで、私は妙にソワソワとして落ち着かない。


 私のそのソワソワは、その人を見つけ出すまで止まらない。



 頭を左右に動かして、その人の姿を探す。



 あっ、今日は右から来た。


 あっ、今日は左。   


 そんな子供のようなことして、私は楽しみ喜びを感じていた。
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