揺れる
 その人の繊細な指先が吊り輪を捕まえ、朝だというのに凛とした横顔を向ける。



 私はそれを見逃さない。


 電車に揺られながら、横目でその人の行動を窺う。


 その人はいつも窓の外を眺めているのか、ただひたすら前を向いていた。



 太陽がその人の顔を照らし、私の目に焼き付ける。


 いや、太陽が顔を出さない日でもその人は輝いているように見えた。



 心を奪われるとそんな妙な現象に襲われるのかと私は笑った。



 不可思議な感覚に嘲笑しつつも、私はその人から目を外すことはなかった。
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