amoroso
そこには
黒髪の男がピアノを弾いていた。
制服を着ているところから
ここの生徒だと分かる。
香音に気づく様子もなく弾き続けていたので
香音は近くにあったイスに座った。
あっ この曲知ってる
でも…
こんなに切ない感じがする曲だった?
寂しくて 悲しくて
泣きたくなるような音がする
なんて 思っていたら
「何 泣いてるんだ?」
と いきなり男から声をかけられた。
「えっ?」
と 香音は驚く。
「だから なんで泣いてるんだよ。」
「泣いてる?」
と 顔を触ると確かに頬が濡れている。
香音は急いでハンカチで顔を拭く。
「…変な女。」
「!?…変な女って いきなり失礼じゃないですか?」
と、香音が怒ると
「ふっ」
と 男は鼻で笑うだけ。
「あなたは失礼な男ですね。」
と 言っても男は何も言わず
ピアノに向かったまま。
「…。」
「…。」
2人とも無言になる。
「……ピアノ弾かないんですか?」
と 香音が聞くと
「今日はもう弾かない。」
と 男が答えて
また無言になる。