この美しき世界で
そうだ。死のう。


いっそのこと死んでしまおう。


銀色の刃をこの胸に突き立てられれば楽になる。


鈍色の牙がこの身を噛み潰せば楽になる。


炎が焼き尽せば、楽になる。


だからギルドに登録した。常に危険の中に身を置けるから。


だから危険度の高い討伐任務ばかり請け負った。最も死に近づけるから。


それでも俺は生きていた。まだ俺は諦めていなかった。目の前の敵の刃をかいくぐり、斬り臥せて、自らの生にしがみついていた。


沢山の絶叫を耳に、沢山の返り血を体に浴びて。


情けない男だ。


仕事が終われば金を受け取り、その金で飯を食い宿をとる。定住をしようとは思わなかった。


仕事がなくなったら次の地に行けばいい。そしてまた同じことを繰り返す。


復讐なんて、考えられなかった。あの圧倒的な力を前にして、考えられる奴がどれだけいるというのか。


勿論、例外もいるが。俺はそんなに強い心を持ち合わせていなかった。


「セロちゃん。仕事お疲れさん。」

「ナツ、か。」


『あの』惨劇から共に生き長らえたナツ。こいつはまだ俺の隣にいた。


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