SOUND・BOND
今はそれよりも、と頭を切り替える薫季。
大分前の方に来るとステージの存在が一層迫力を増した。
気圧されながらも少女の姿を思い浮かべる。あの身長を考えたら必ず一番前にいるはずだ。
きっと――
頭を下や左右に動かしながら視線をステージの直ぐ前を泳がせる。薄暗くて辺りが見難いため、少しつり上がった目が次第に細められていく。
その上周りが大人きりだからなかなか見つけにくい、が――
「あっ」
数メートル先にうずくまる子どもの姿を捉えた。
黒髪のツインテール。
間違いない、あの少女だ。
それは何人かの足の隙間から窺えた。
でも……
「なんだ?」
様子がおかしい。なぜあんなところに座り込んでいるのか。
あの年代の子なら、立っているのがキツくなったとか、この人混みに飽きて疲れてしまったというところだろうか。
それなら尚更助けてあげなくてはと、勝手にそう判断して薫季は足を速めた。
しかし、何かが変だった。
(泣いている……?)
はっきりそう認識したのは、ステージのライトが少女の潤んだ瞳を照らしたためで、丁度最終バンドの紹介が始まった時だった。