優しい刻
チッ……チッ……

時計の針の音が嫌に大きく響く。時折ペンの走る音が聞こえるが、それ以外は少し怖い位に沈黙を守っていた。

「如月さん、私巡回行ってきますね」

「はい。お気をつけて」

そんな沈黙を破ったのは、隣で管理チェックをしていた同僚の看護師だった。
内科に来て初の夜勤担当。外科と違って内科は夜中の急変が多いからか夜勤担当の看護師も私を含めて4人と多い。

内科の仕事やスタッフの人達にやっと慣れてきた私は、初の夜勤も今の所何とかこなしていた。



そして、夜中の2時を回った頃。

プルルルル……

電話が鳴り、1番近くにいた私がとった。

「はい、こちら内科」

「こちら外来です。救急車で運ばれてきた男性患者一名、お願いできますか」

聞けば他にも同時に数名違う病状で運ばれてきたりしているらしい。看護師に人手が足りなくなり、外来に1番近い内科に補充のお呼びがかかったのだろう。

「了解です。診断カルテは……はい、ではそちらに一度寄りますね。――はい、では失礼します」

受話器を置いて息をつく。
そして他の担当の看護師にその場を任せ、私は内科ナースステーションを離れた。





「過労による貧血と……ストレス性の胃炎!?凄い、働きすぎのビジネスマンだぁ……」

カルテを見ながら、私は一人驚いていた。この頃の不景気で、過労で運ばれて来る人が多い。看護師の仕事も3Kと言われるほど苦しい職業だが、こういうビシネスマンもきっと辛くて大変な事が沢山あるのだろう。

「お父さんも……」

そう、だったのかな。

私と母を養うためにいつも懸命に働いていた父の背中。そういえば父もサラリーマンだった。休みなんて滅多に無かった父。

そして、私の為に仕事を休んでくれた父――……



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