優しい刻
次の日から。
時折、優しそうな『彼』を見た。
個室に入った『彼』には沢山の見舞いが来ていて、その人柄の良さが分かるようだった。
「個室の403の北垣 誠(キタガキマコト)さん、めちゃくちゃ格好良くない!?」
「はいはい。分かったから仕事なさい、水野さん」
「はぁい……」
軽くあしらった内科スタッフに「つれないわね」と肩を竦め、水野ありさは相変わらずの様子でカルテ整理を始めた。
――北垣 誠さん、と言うのか。
水野ありさが要らぬことまでおしゃべりしたおかげで『彼』について色々知ることが出来た。
――――北垣 誠、26歳独身。
某有名大学を卒業後、海外留学を経て大手財閥グループに就職。いまはその会長・社長専属秘書を若くして務めているという。
寝言からして相当苦労しているようだし、『彼』が倒れてしまったことも頷けた。
実はというと、私はあれからいつも何処かしこで『彼』を見ていた。
いや、『見てしまう』と言った方が正確かもしれない。
あまりのやる気を見せた水野ありさに『彼』の担当は回ってしまったが、私は初めて『羨ましい』と思った。
優しそうな『彼』の横顔は何処と無く父にも似ていて。
懐かしい、けれど同時に違う甘酸っぱい感情を感じていた。