元気あげます!巴里編
「婚約解消って何・・・千裕様の子どもって・・・。
そんな・・・。
いったい日本では何がどうなっているの?」
ひかるはすぐに千裕に電話をかけましたが、電源が切れているのかつながりませんでした。
翌朝も電話をかけましたが、つながりません。
さすがに、もう遅刻するわけにはいかないので、ひかるはダイニングテーブルの上に指輪を忘れたまま慌てて出かけました。
もうみんなを振り回すようなことをしてはならないと、ひかるは1日元気をふりしぼって仕事をこなしました。
しかし、その分飛ばし過ぎたのか、学校の講義に出席する体力も気力もなくなっていました。
家に帰って眠ってしまおうと思い、工房を出て歩きだして3分ほどしたところでひかるは歩道の段差につまずいて、転んでしまいました。
擦りむいた膝をかばいながら立とうとすると、体がすっと浮き上がり、ひかるは抱きかかえられていました。
「は・・・セ、セルジュさん?」
「近くの駐車場に車を置いてるから、送っていく。」
すごく疲れているのに、この上にお説教なんてことになったら嫌だなぁとひかるは憂鬱な気持ちになっていました。
しかし、セルジュの口から出たのは説教ではなく、ぶっきらぼうではあるけれど、優しい言葉でした。
「俺は、実業家の世界なんてぜんぜんわからないけど、どういう世界に生きようが、自分が大切に思う女を泣かせるのはいかんと思う。
今日は一度も笑わなかったな。
俺が捕まえたやつが帰ったあとは笑ったのに・・・今日はずっと口元が泣いたままだった。」
「あ、ばれてましたか。セルジュさんにばれてるってことは、チーフにもバレバレですよね。
昨日の晩に女の人から電話があって、親友があなたの婚約者の子どもを身ごもったって・・・。
本人に確かめようとしたら、電話が通じなくて・・・。
まだ、本当かどうかもわからないのに・・・私、落ち着かなくて。
そんなこと気にしてる場合じゃないのに。すみませんでした・・・。」
「他人に言えたならまだいい。
ひとりで抱え込まなければ、十分立ち直れるから。」