元気あげます!巴里編
ひかるが出かけてから、千裕はため息ばかりついていました。
「記憶がなくても、ひかるの側に居ればやっていけると思ってた。
けど、今になって、記憶がないことがこんなにつらいことだとは・・・。
かといって、触れられないつらさを逃れるために、この家を出たりしたら、お互いにもう会えなくなりそうな気がするし・・・。」
千裕は気分転換に読書でもしようかと、書棚をながめました。
「なんだこれ・・・?日記かな・・・」
『変装したら男に好かれて叱られた。
2週間も仕事ばかりで嫌な顔された。
・・・・・・・・・・
パティシエの資格を持ってるのがばれて叱られた。
セルジュと仕事で仲良くしすぎだと叱られた。
ずっと触れてくれないと叱られた。
・・・・・これは少し時間をかけないと。
ひかるが生徒じゃなくなったら、きっと。
あんな泣き顔はさせないようにしないと。』
「泣き顔・・・って、ひかるを泣かせた?
あれ、写真?」
おそらく自分の反省を綴った日記だと思われるノートの間から、高校生のときのひかるの写真が3枚出てきました。
「今よりぽっちゃりしていてかわいいな。
子ども扱いとかって怒るのは、このあたりからのクセが抜けないからかな。
でも・・・この写真は・・・。
ひかるが泣いてる。怯えた目をして震えてるような・・・。
どうしてこんな写真をここに入れたんだろう?」
とても気になった1枚からどうしても目が離せなくて、千裕はしばらく泣き顔のひかるの写真を見ていました。
「うっ・・・頭がいたっ!痛い・・・。」
千裕は頭痛薬を飲みに台所へと移動しようとしましたが、リビングで座り込んでしまいました。
そこへひかるがもどってきて、慌てて駆け寄ると千裕が頭痛薬を・・・という言葉を聞きとることができました。
「わかったわ。」
ひかるは薬と水を千裕に飲ませて、千裕の背中をさすりながら言いました。
「大丈夫、大丈夫だから・・・。ねっ。もう大丈夫だから・・・」
「大丈夫なんかじゃないじゃないか・・・・・・。」