元気あげます!巴里編
「そう・・・なんだ。
あのさ、俺が思いだしたのはほんの少し、ひかるといっしょにいるときのことだけなんだ。
だから、まだ家族や会社関係には記憶がもどったって言わないでくれないか。」
「はい。」
「それだけ?会社へ行きたくないからかとか疑わないのか?」
「なんで疑うんですか? 千裕様は私にウソなんていつも言わないじゃないですか。
それに、ちゃんとウソついてない目をしてます。はいっ。」
「いつのまにか、ひかるには勝てないようになってたんだな・・・。
しかしなぁ・・・記憶が少しもどったら、明日ちょっと困ったな。」
「いつもどおりアトリエに通わないんですか?」
「記憶がないときは、女性の方が絵のことや仕事のことをよく教えてくれるんで都合がよかったんだけどさ・・・記憶がもどってくるとやっぱりさ・・・。
ここに帰って来た時だってひかるに嫌な思いさせてしまったし。
かといって、何もわからなかった俺に親切にしてくれた人たちだから、いきなり邪険に扱うわけにもいかないし。」
「アトリエの人たちには記憶が少しもどったから、少しずつ仕事するので・・・って説明にするとか・・・。」
「やっぱりそれしかないよな。そこはウソつくしかないな。」
「人を傷つけたくない気持ちがあるんだもの、わかってくれると思う。
でも、絵はどうするの・・・?」
「商品化で採用になったものの製造も始まっているから、そこらは琴美さんに手伝わせてもらうなり、新しいものに着手させてもらうなりするよ。
その方が仕事復帰もしやすいだろうからね。」
「無理だけは絶対しないでね。私、千裕様が目をあけなかったらって思ったらほんとに恐かったんだから・・・。」
「心配してくれるのはうれしいけど、あんまりそういう言葉を言われると困るよ。」
「えっ?」
「だ、だから・・・あんまりかわいいこというとな・・・。
あ゛ーーーーーーーー! ごめん、寝るわ。 おやすみ。」
「千裕様?・・・・・。」