飴色蝶 *Ⅰ*
真っ直ぐな瞳で

会長を見つめて菫は言う。
 
「お金は、そんなにたくさん
 無くていいです
 ほんの少しでいい・・・
 
 私が欲しいのは、あの人だけ
 彼が『愛している』と言って
 くれるなら、彼以外
 何も要らない」

「ほう、その彼の事を君は
 どれ程までに知っている?」

「私は、彼の事
 ・・・何も知らない」

「彼がどんなに極悪非道な人間
 でも、君はその人の為に全て
 を捨てられるのかい?」

満員電車の中で

初めて彼を見た時

私の瞳に映る世界は一変した。
 
「はい」

庵の姿はもう、そこには
無かった。

車へと戻る庵、彼は菫の答えを
聞かなくても最初から知っていた。

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