前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「今晩にでもLINEで予定のこと聞いてみようかなぁ」


ブツクサ独り言を口にしながら、俺はオンボロアパートの階段を上った。


部屋の扉の鍵を開けるために鍵穴に鍵を挿し込む。


「ただいま」


誰もいない筈の部屋にただいまの挨拶。


すると「おかえりなさい」声が返ってきた。


驚いた俺は早足で部屋に上がる。

俺の目に飛び込んできたのは敷布団に身を委ねている母さんの姿。


俺が帰って来ると上体を起こし、ニコッと笑顔を向けてくる。
 

だけど風邪を引いているのか咳が酷い。声もガラガラだ。


「母さん風邪? 声が酷いよ。あ、寝てていいから」


腰を下ろした俺は通学鞄を畳の上に置いた。


心なしか母さんの顔が赤い。熱があるみたいだ。


俺の言葉に甘えた母さんは再び布団に沈む。


「ごめんなさいね、空さん。私、風邪を引いてしまって今日は早退してきたの。今晩は裕作さんの帰りが遅いから、空さんに夕飯を頼むことになってしまうけれど」


「謝ることないよ。風邪なんだし……熱高そうだけど大丈夫? 病院には?」

「ただの風邪ですから。これくらい病院に行くほどでもないですよ」
 

さほど熱も高くはないらしい。


ならいいんだけどさ。

母さんすぐに無理するから……あんま父さんにも母さんにも無理はして欲しくない。


俺は母さんのためにお粥でも作り置きしておこうと腰を上げる。卵粥なら母さんも食べれるだろ。
 

(今日は鈴理先輩とデート……できなくて正解だったかもな。母さんがあの調子なら)


チラッと母さんの方に視線を投げる。

ゲッホゲホと咳き込んでいる母さんは小さく身を丸めている。


今日は一日、母さんの看病だな。



その日、俺は一日母さんの看病に明け暮れていた。


おかげでさまで、折角鈴理先輩からLINEが来たんだけど、直ぐには気付けずにいたり……ちゃんと返したけどさ。

だって内容が『明日なら空いている!』とLINEが来たんだ。


もしかしたら無理やり日を空けてくれたのかもしれない。


そう思うと俺だって『じゃあ明日に』とLINEを返しちまうだろ。


きっと明日には母さんも元気になるだろうから、デートも出来る筈だ。


今度こそ、さ。


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