前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
腕を組む彼女が「ヒロインなら」ヒーローを喜ばせるようなことをしても良いよな、と横目でチラ見。
また無茶ぶりを……ポジションは譲ってあげるけど、そういう我儘は頭を悩ませる。
今か今かと反応を待つあたし様に押され、俺は必死に考える。
「わ、先輩。カッコイイ素敵!」
「まったく嬉しくないのだよ」
「ヤンッ、センパイキャッコイイステキ!」
「……言い方を換えても一緒だ。空、少しばかりキモイぞ」
えぇええ頑張って裏声を使ったのに!
羞恥を呑んで頑張ったのにっ、その反応は傷付く! 冷たい目で見らえるとかショック過ぎるんですけど!
ど、どうしよう。
ヒーローを喜ばせるものってなんだ。
俺がヒーローになって考えればいいのか?
もし俺がヒロインにこう言われたらときめくもの。
先輩がときめそうなもの……あ、あー……またキモイと言われそうだけど。
「先輩」
「なんだ?」
意地の悪い笑みを浮かべて、苦悶している俺を捉えてくるガラス玉のような瞳にぎこちなく甘えてみる。
「キスしてください」
燦々と降り注ぐ太陽の光よりも眩い破顔が俺の視界を覆う。
真っ昼間にも関わらず、俺達は木々の香りに包まれ、そよ風を受けながら水辺のベンチでキスを交わした。
この光景を見て何人が分かるだろう?
彼女がヒーローで、俺がヒロイン的なポジションにいる、のだと。