前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「心配させた仕置きをさせろ」
急速に空気が凍っていく。
甘さを含んだ雰囲気は、おどろおどろしいものに変わり、俺の心臓をドキドキさせる。
当然、このドキドキは胸キュンの方向性ではなく、いつもの意地の悪い台詞に恐れおののいたドキドキバクバク、付け足しにハラハラ。
え、仕置きって何デスカ?
まさかのまさか、させろなんてとんでもないことを言い出すんじゃ。
タラタラと冷汗を流す俺の反応を楽しみながら、先輩は目を細めて口角をつり上げる。
「此処は保健室だしな。ベッドも丁度ある。まさに『ご自由にシて下さい』と言わんばかりの場所だ。なあ?」
保健室に置いてあるベッドの用途が違う!
「俺には『怪我人・病人の方は大人しく寝ておいて下さい』と言わんばかりの場所に見えるっす! ……仕置き、やめません?」
「駄目だ。あんたが落ちた時、肝が冷えるかと思った。あれほど、あたしが止めたのに聞かなかった。そんな聞かん坊には仕置きが必要だ」
倉庫から落ちて泣くほどの恐怖した、それで十分仕置きにならないでしょうか!
引き攣り笑いを浮かべている俺の体を引き寄せて、先輩は耳元で囁く。「あんたからキスして」と。
それが彼女の下した仕置き。
想像していたよりかは酷くないけど、俺にとっては効果的な仕置きだ。
あわあわと慌てふためきながら、俺は素っ頓狂な声を出した。
「お、おおおぉお俺からっすか!」
「二つ選択肢を与える。此処でスるか、あんたからあたしにキスするか」
究極っすよぉおお! 此処でシたくはないっす!
だけど俺からキスなんて……キスなんて……。
唸り声を上げる俺にニンマリ笑い、鈴理先輩がイソイソと人のベルトに手を掛けてきた。
ちょ、待った! それは待った! 全力で待ったの待った!
俺は急いで先輩の手を掴んでブンブン首を横に振った。