hiding
逃げる事しかしなかった私だけど、母も逃げていたのかもしれない。

臆病な私達だけど、やっとお互いに1ミリ程近づいた。私達にとっては大きな1ミリ。

母が家に入ると菜々子が駆け寄ってきて、無言で私を抱きしめた。

「…ふ、何で菜々子が泣くの」
「だって、だってッ…」
「もう大丈夫だから。悪い事は、きっと起きない」

人間って上手い事できてるんだから。辛い事なんて寝たら忘れちゃうの。自由に楽しい夢を見られるの。

だから、私はもう泣かない。一生分泣いた気がするし、きっとこれからは楽しい事しか起きない。

「私は幸せなんだよ。皆がいるから」
「薺菜、愛してるわ」

菜々子が更にきつく私を抱きしめる。俺も、俺もと3人のキラキラな男子も私に押し寄せてきた。当然私はもみくちゃである。

随分苦しい幸せ。でも、何より嬉しい。

優しい言葉が、愛が、笑顔が、私を包んで輝かせてくれる。

私は落ちる所まで落ちたから、上に上がるしかない。だから、笑顔で這い上がってやる。

大好きな人達の中で私は心の底から微笑んだ。
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