禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
桔梗さんが奥に引っ込んでしまうと、場が静かになりました。別に、もともと騒がしかったわけではありませんが、私と香蘭さんの間にはこれといった会話がないのです。共通の話題も、見当がつきませんし、せいぜい、「いつも大変ですね」としか言えません。なにより、彼女はそれに、「いいえ。そんなことはありません」と答えて、終わりますし、会話が続かないのです。すっとぼけたことを抜かす桔梗さんのほうが、まだ会話が続くという不思議。
ともあれ――香蘭さんにも、訊きたいことはあります。今必要としている情報とは違いますが。
立っているのもなんなので、たたきに腰を下ろしました。
「香蘭さん。ひとつお伺いしてもいいですか」
「はい。なんでしょうか」
「たたりもっけって、なんですか」
「泣いている子供にございます」
「それって、人間なんですか
「いいえ、妖にございます」
「あやかし……」
さすがにうちの雑誌でも、オカルト記事は載せられるかどうか……。それに、「あの町内有名人・香蘭さんが、お化けの子供に毎日おやつを与えている」などという記事をだれが好んで読むのでしょう。いえ……今の世の中も奇特ですから、まったく需要がないと言い切れないのも怖いですが、それで困るのは香蘭さんよりもウチのほうでしょう。彼女の人気からして、「香蘭ちゃんを悪く言うなんてどういうつもり!」とか喚きながら乗り込んでくる人など、町内にいくらでもいそうです。
ともあれ――香蘭さんにも、訊きたいことはあります。今必要としている情報とは違いますが。
立っているのもなんなので、たたきに腰を下ろしました。
「香蘭さん。ひとつお伺いしてもいいですか」
「はい。なんでしょうか」
「たたりもっけって、なんですか」
「泣いている子供にございます」
「それって、人間なんですか
「いいえ、妖にございます」
「あやかし……」
さすがにうちの雑誌でも、オカルト記事は載せられるかどうか……。それに、「あの町内有名人・香蘭さんが、お化けの子供に毎日おやつを与えている」などという記事をだれが好んで読むのでしょう。いえ……今の世の中も奇特ですから、まったく需要がないと言い切れないのも怖いですが、それで困るのは香蘭さんよりもウチのほうでしょう。彼女の人気からして、「香蘭ちゃんを悪く言うなんてどういうつもり!」とか喚きながら乗り込んでくる人など、町内にいくらでもいそうです。