禁煙する倭ノ宮桔梗と泣き出さない〝たたりもっけ〟
「私、とある雑誌の編集者なんですが、実は、お子さんのことについてお話を伺えないかと思いまして、参りました」

私がガンクビ取りの仕事が多いのは、声にも理由があります。デスク曰く、私の声は聞く相手に「仕方ないな」と思わせるらしいです。相手のどこかに、つけ込める。それがどこなのか、自覚はありませんが、それだけわかっていれば充分です。

『善い人』を演じる。そのスイッチを入れれば、ケースによっては多少渋られるにしても、インタビューを断られたことは、ほぼありません。

『……ともきの、ですか』

「はい。ご家族の方もさぞご心配されているだろう思って、私、なんとかお子さんの捜索に一役買いたいと、」

『どうぞ』

「へ?」

『あがっていってください。お茶でもいかがですか?』

「あ、えと……」

おかしい、ですね。いつもなら、そんなにあっさりとは返してこないのですが。ここで多少渋られて、けれど私が粘って。そういう行程がすっ飛んでしまいました。

「どうしました」

と、聞こえてきたのは、肉声でした。顔を寄せていたインターホンからハッと顔を上げると、玄関が開いて、女性が半身を覗かせていました。声同様にとても落ち着いた物腰、栗色の髪に緩やかなウェーブをかけている、私とあまり歳の変わらなさそうな人でした。

「土屋ともきくんの、お母様ですか……?」

「ええ、そうです」

彼女はそして、とても優しい笑顔で、こう言うのです。

「どうぞ、中へ。すぐに紅茶の準備をしますので」


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