声恋 〜せいれん〜




現場ではじめてその姿を見たとき、とにかくそのカッコよさに目をうばわれた。えりあしが少し長めの、つやつやとした黒髪のショートカット。ブラウンのレザージャケットに黒のパンツにブーツという、ライダーっぽい格好がすごく似合っていた。




スラリとしてスタイルがよくて、洗練された雰囲気があった。姿勢がいいから特にそう感じたんだろう。動くときの所作のひとつひとつに、優雅さと意思が感じられた。




はじめてあいさつをかわしたとき、声の伸びと力強さに心がギュッとわしづかみにされた。




(どこかで聞いたことのある声だ)




自分の耳の記憶の中にある声が、いろいろと思い出させる。そして一致した瞬間、ワッと一度に記憶がよみがえる。




いぜん蓮也さんと映画を見に行ったとき、ヒロインの声を演じていたのが彼女だった。




最近始まったばかりのロボットアニメの女パイロットも演じている。ものすごくかっこよくて、女性からの支持もかなり多い役だ。そういうわたしも、こういうジャンルは苦手なのだが蓮也さんが出ているから毎週欠かさず見ている。




そんな人が、こんな小さな役もやるなんて、ちょっと意外だった。




自分のなかにある哲学と法則が確立されている。それはすべて“風巻塔子”としての存在の証だった。これとよく似た雰囲気を持った人を、わたしの身近では一人しか知らない。




そのときからすでに、予感があったのかもしれない。




彼女と蓮也さんとの、関係が。



< 191 / 286 >

この作品をシェア

pagetop