声恋 〜せいれん〜




ごく短い内容だったが、収録は半日かかった。




終わったときは緊張からの解放と空腹でへとへとだった。




何も考える力もなく、椅子にぼんやりと腰かけていたとき、「ハイ、これ」と言って栗まんじゅうを渡された。




「出し切って脳が疲れたあとは、やっぱあまいものが一番だから」




そう言って笑う塔子さんの顔はきれいで、同性なのに不覚にもドキッとした。




「あ、ありがとうございます。…あの、こんなこと言っては失礼ですけど、やっぱり、すごくお上手でした。わたし…自己紹介のときもいいましたけど、今日がはじめてだったもので…緊張しちゃって…」




「ん…全然そうは見えなかったよ。どうどうとしてた。はじめてだったらふつうはもっとしゃべれないもんだけど桜木さんはよかったよ」




ほめられたと思ったから、すごくうれしかった。




「ただ…」




「…ただ?」




「ん…桜木さんは…ちょっと“自分”というものにこだわりすぎてるみたい…今日も他の野菜たちのこと、考えてなかったでしょ」



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