声恋 〜せいれん〜




「…自分のこと、悪く考えることないよ」




塔子さんがこちらの心を見透かしたように言う。




「蓮也、あなたのことすごく大切に思ってる。これはホント。ふつう蓮也しないもん、若い、声優目指してる子つかまえて、オレが面倒見てやるみたいなこと。そうやって悪いことする奴らいっぱいいるもんね。なんにも知らない子をつかまえて相手の弱みにつけ込んで、自分のいいように利用するやつ。そいつらは最低だ。わかってるから、蓮也はそういうことになるべくかかわらないよう慎重に行動している。でもあなたは違った。あなたには本気で、いい声優になってほしいのよ」




「どうしてわたしだけが特別なんて言えるんですか? げんに蓮也さんはわたしと寝たし、こうしてそのあとわたしを捨てようとしてるじゃないですか!」




自分で言って、悲しくなった。声をあらげてしまい、涙をおさえることもできなかった。




「わたしは…ただのミーハーなファンです。彼の口車に乗せられて、だまされて、飽きたらポイ捨てされるような、バカな女です…だからもう…蓮也さんとは、会いません。そうお伝えください。どうぞ…二人でお幸せに」




そう言って席を立つ。




自分から、逃げ出す。




「…まさか本心じゃないよね」




もう、なにもききたくない。いいたくない。




自分から、耳をふさぐ。口を閉じる。




最後に一言、塔子さんが言う。




「そうやって自分をごまかしてるやつに、他人に心なんか伝えられないよ」




…もう、いいんだ。わたしの心なんて、伝える必要ない。




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