声恋 〜せいれん〜




「ん…なに?」




「えっ、あ…ごめん。えと…その服似合うなって思って」




「あ、そう?…ていうか初めて私服見せたよね…あ、これお土産」




そう言って優一くんは小さな箱をさしだした。




「あー、やったー♪ ありがとう〜! さ、入って入って」




「あ…うん…」




「どうぞどうぞ」




「あ…えっと…」




「ん? なに?」




「その…なんだ…」




「なになに? はっきりいってよー」




「桜木さんの私服もはじめて見たけど…。似合ってる。かわいいよ」




「えっ!? あ、ありがとっ。えへへ♪」




赤とかピンクとか白。




わたしの好きな色がたくさん並んでるクローゼットの中から選んだのは、ふんわりシフォンの花柄ワンピース。




春っぽいし、やっぱり春はお花だよね。




優一くん、女の子っぽい服が好きなのかな?




「でもかわいい、なんて照れちゃうよー。あ、ゲームもってきた?」




「うん」




「わー、ありがと! さ、どうぞおあがりくださ〜い」




カチャン、ってドアのしまる音がして家の中に静けさが宿る。




陽の光がさえぎられて、闇が訪れる。




いつもと違う世界に、とまどう。




見なれた彼の背中も、別人のよう。




胸が一度、ドクンと鳴る。




ゴクン、とつばを飲みこむ音がする。



< 23 / 286 >

この作品をシェア

pagetop