声恋 〜せいれん〜
「ん…なに?」
「えっ、あ…ごめん。えと…その服似合うなって思って」
「あ、そう?…ていうか初めて私服見せたよね…あ、これお土産」
そう言って優一くんは小さな箱をさしだした。
「あー、やったー♪ ありがとう〜! さ、入って入って」
「あ…うん…」
「どうぞどうぞ」
「あ…えっと…」
「ん? なに?」
「その…なんだ…」
「なになに? はっきりいってよー」
「桜木さんの私服もはじめて見たけど…。似合ってる。かわいいよ」
「えっ!? あ、ありがとっ。えへへ♪」
赤とかピンクとか白。
わたしの好きな色がたくさん並んでるクローゼットの中から選んだのは、ふんわりシフォンの花柄ワンピース。
春っぽいし、やっぱり春はお花だよね。
優一くん、女の子っぽい服が好きなのかな?
「でもかわいい、なんて照れちゃうよー。あ、ゲームもってきた?」
「うん」
「わー、ありがと! さ、どうぞおあがりくださ〜い」
カチャン、ってドアのしまる音がして家の中に静けさが宿る。
陽の光がさえぎられて、闇が訪れる。
いつもと違う世界に、とまどう。
見なれた彼の背中も、別人のよう。
胸が一度、ドクンと鳴る。
ゴクン、とつばを飲みこむ音がする。