声恋 〜せいれん〜




レギュラーメンバーがはじめてスタジオに集まったときのことだった。




わたしはまだ自分が選ばれたことが信じられなくて、それとオーデション会場での“でしゃばりすぎ”もあって(あとでマネージャーの米本さんにこっぴどく叱られたし…)、まだみつ江さんときちんとお話ししたことはなく、むしろ無意識のうちに彼女をさけていたかもしれない。




言ったことは後悔してないけど、大大大先輩にキレてしまったのは事実だったから…。




そんなわたしのこわばった心のバリアーをとろうとしたのは、なんとみつ江さんの方からだった。




わたしが慣れないスタジオで一人で練習していたとき…。




出番でもないみつ江さんがスッと入ってきた。




(あれっ…なんだろ、怒られるのかな…?)




胸がドキリとして、キュッと胃の下に力が入るのがわかった。




そんなわたしのななめ後ろに立つと、みつ江さんはわたしの肩甲骨のあたりをそっと手で押した。




「え…?」




「陽菜さん、あなたはもっときれいな声が出るはず。いま、わたしがふれた所に、力をいれずに出してごらんなさい」




そう言ってみつ江さんはにっこりと笑った。




満面の、笑み。




その瞬間、オーデションのときからずっとつづいていたわたしの緊張が、スーッととけていくのがわかった。



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