声恋 〜せいれん〜




「陽菜、来月の文化祭公演もあるし、ずいぶんいそがしくなるね」




「いそがしいって言っても…まだお披露目もまだだしね…いまはみんなの演技についていくことでせいいっぱいだよ。すずのほうがアイドルの仕事忙しいでしょ?」




「んー、それほどでもないけどね」




そう言ってふたりでぶらぶら歩いてると…またあの、コンビニが見えてくる。




「…よってくんでしょ?」




「…うん…」




コンビニを指差すと、すずがもじもじしながら小さくうなづいた。もう、かわいいんだから。




「そんなに恥ずかしがらなくても…最近どう? 光紀さんと、会ってる?」




「ん…最近あんまり…見かけないんだよね…時間が合わないのかな…? バンドの方がいそがしいのかな…?」




そう言いながら店内に入ってみると、たしかにすずの好きな光紀さんの姿はなかった。




見るからにがっかりした様子のすず。なんかかわいそうになってきちゃった…。




「ねえ、きいてみようか。あの人、店長さんだよね」




「あ、バカ、やめ…」




「あのー、すいません。このお店に小野田光紀さんっていう人が働いていると思うんですけど…」




「え? ああ、彼ならやめたよ…2週間くらい前に。バンド活動が忙しくなったみたいで、やめますって。引っ越しもしちゃったらしいね」




すぐに、すずの方を見る。




人の顔がみるみる青ざめていく様を、わたしはこのときはじめて見た。



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