声恋 〜せいれん〜
記者会見場に、三本のマイクがならぶ。
左にみつ江さん、まん中に渡さん、柚木さん、古澤さん、右はじは篤弘さんが位置に着く。いつも一緒にいるミリシュとクラウスは声がかぶるから離ればなれ。いつものアフレコと同じ立ち位置だ。いつもの自分たちのキャラの人形を持って、せいぞろいしている。
はぁ…緊張する…手に汗かいてきちゃった。
いよいよ今日、正式にわたしの、人間キャラ「ティーナ」の正式発表が行われる。
その前に、会見場ではみつ江さんとミリシュちゃんの出会いが語られていた。
「ずいぶん昔の話ですが、わたくしと夫の間には一人の娘がおりました。幼くして亡くなりましたが、彼女のだいすきな絵本がこの『みちのけものたち』でした。わたしと夫は時間がゆるすかぎり、このお話を読み聞かせたものでした。そして娘が大好きだったこの物語を、もっと多くの人に知ってもらいたいと思い、原作者のターニャさんに直接お会いしてお願いいたしました。なかなか母国以外でのそういったものにはOKをださない方でしたが、わたくしたちの熱意が通じたのか、幸運にもこうして人形劇という形で、皆様にもミリシュたちの活躍をお見せすることができるようになりました。しかもそれから望外のあたたかいご支持をたまわり、長年の放送とあい成りました…
「…ターニャさんのご容態もおもわしくありませんが、こうしてオリジナルのエピソードの許可もおり、この日本版の『みちのけものたち』が世界でも認められて、公式に新しいファミリーを迎えることができました。まだまだ、身のぼど知らずのわがままな『人間の女の子』ではありますが、異形のものたちが集うこの「谷」に、あたらしい時代の指標となることを確信いたしております。どうかみなさま、すえながくこの『ティーナ』の成長を見守り下さいますよう、よろしくお願い申しあげます」
その言葉と同時に、サッとみつ江さんのとなりに一本のマイクが加えられた。
あそこが、わたしの居場所。
手に持った、「ティーナ」の人形が語りかけてくれる。
『さ、行こう!』
…うん!
桜木陽菜、いま、スタートラインに立ちます!