ＮＯＡＨ
そこは、地下だった。上の方の窓から明かりが少し入ってくるだけで、大分薄暗い。
　
地下ということもあってか、空気が淀み、僅かながら異臭が漂っていた。

「お前らには刺激が強いかもしれないけど…。逃げんなよ」
　
扉の前で、シオがそう言った。
　
どういう意味なのかは、すぐに分かった。
　
両開きの扉を開けた瞬間、何とも言えない悪臭が鼻をついた。　　

「何、この匂い…」
　
ヒオウも顔をしかめている。しかし、その奥には想像を絶する光景が待っていた。
　
割と広い空間の中に、天井から僅かに注ぐ柔らかな太陽の光。

その下には、無数の塊が蠢いていた。その塊が何なのか、初めは分からなかった。
　
しかし良く目を凝らして見てみると…。
　
それは人であった。　　　

全身が包帯に包まれ、その包帯も血が滲んでいるのか、赤黒く染まっている。

何人もの苦しそうな息遣いやうめき声が重なり、部屋中に低く響いていた。
　
その中に、その者達を看病しているらしい人が三人ほどいて、シオはその者達に声をかける。

すると、その三人は喜びの表情を浮かべた後、部屋を出て行った。…おそらく、トモの出産の報せを聞いたのだろう…。

< 102 / 214 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop