花の魔女
ルッツが必死でドロシーに呼びかけている。
ドロシーは口をキュッと結んで青ざめ、さっと背を向けた。
魔物に早く飛べとせがんでいる。
「ドロシー様!」
(ラディ……アン…)
魔物が大きな翼を広げ、強い風を巻き起こしながら飛びたった。
砂塵が舞って、ドロシーたちの姿を見えなくしてしまった。
姿が完全に見えなくなる前に、ラディアンが一瞬、こちらを向いた気がした。
ナーベルはフィオーレに支えられながら、魔物が完全に飛びたっていってしまうのをただ眺めた。
すぐ、そばに。
あの人はいたのに、話もできなかった。
優しく触れることもできなかった。
自分にもっと力があったなら
あなたを助けることができたかもしれないのに……
「ごめんなさい……」
砂塵が収まり、影すら見えないのを確認すると、ナーベルはそうつぶやいて目を閉じた。
フィオーレの、懸命に自分を呼ぶ声が聞こえる。
大丈夫よ、フィオーレ。
ちょっと眠いだけなの。
今は何も、
考えたくないの――…