花の魔女
「目が覚めていたか」
入ってきたのは仮面をつけた男で、男は運んできた食事をテーブルの上に置いた。
「食べろ。もっとも、毒が入っていないとは保証しないが」
くくっと笑う男の声に、ナーベルは眉を寄せた。過去に、この男の声を聞いたことがある。
「その声、その仮面…。あなた、あのときラディアンを攫っていった奴らの…!」
あの集団の中にいて、ラディアンに名前を聞いてきたリーダー格らしい男。
「当たり」
仮面男はふっと笑って仮面に手をやり、それを外した。
仮面の下の素顔が顕わになり、ナーベルは目をまるくした。
仮面の下で話していたせいか、くぐもった声だったので中年男性を想像していたのだが、実際に目の前にいるのは20代半ばほどの青年だった。
驚くナーベルに、彼は銀色の髪を揺らして笑った。
「初めましてお姫様?俺はこの国の第一王子、シルヴァン。そしてここは、俺が気に入った女を閉じ込めておくろーや、なんてね」
恭しくナーベルの手の甲にキスをしてきて、ナーベルはあわてて手を引っ込めた。