花の魔女
ラディアンが身構えていると、入ってきたのは黒いドレスに身を包んだ若い女だった。
「ドロシー様」
途端にドニの顔がキュッと強張る。
そして慌ててラディアンから離れて水差しの水をかえるふりをした。
ドニの呟きに、ラディアンははっとして身を引いた。
《ドロシー》、それはラディアンを捕らえたあの男の娘の名前だった。
とすると、この女が。
ドロシーはラディアンの様子にクスクスと笑い、妖艶な表情でラディアンを見つめた。
「いやだわ、そんなに怯えないでくださいませ。仮にもあなたの未来の花嫁に」
コツコツとヒールの音を響かせて、ラディアンのそばに近づく。
歩くたびに彼女のブロンドの髪が主張するように揺らめいた。
ドロシーがそっとラディアンの頬に手を伸ばして触れると、ラディアンは嫌悪感に眉を顰め、ドロシーの手を打ち払った。
途端にドロシーの顔が不機嫌な色に染まる。
端で見守っていたドニはドロシーの様子にびくびくと体を縮こまらせた。
ラディアンはドロシーを厳しい目つきで睨んだまま、ドロシーに向かって口を開く。