花の魔女
「…僕の花嫁はナーベルしかいない」
ドロシーを厳しい目つきで睨んだまま、そう告げた。
ドロシーはかっと目を見開き、テーブルの上の花瓶を手にとると花が入ったままラディアンの方へ投げつけた。
花瓶はラディアンの顔のすぐ傍の壁に当たって砕け散り、破片がラディアンの頬に傷をつけた。
ドニはひっと息を呑み、ガタガタと震えた。
ラディアンに駆け寄りたかったがドロシーがいる手前、ただ状況を見守るしかない。
ドロシーは肩で息をしながらラディアンを睨みつけていたが、しばらくしてふっと笑みを浮かべた。
ラディアンはその様子にぴくりと眉を動かす。
「…いいわ。でもね、あなたは必ず、すぐに私を好きになるわよ」
そう言い捨てて、ドロシーはまたコツコツとヒールの音を鳴らし、荒々しく扉を閉めて去っていった。
ドロシーの香水の残り香が部屋に漂っている。
ドニはしばらく怯えた表情でドロシーの出て行った扉を見つめていたが、我に返って、頬から血を流したまま黙りこくっているラディアンのもとへ近づいた。